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東京地方裁判所 平成7年(ワ)8875号 決定 1995年11月30日

補助参加人

東京商銀信用組合

右代表者代表理事

金聖中

右訴訟代理人弁護士

髙初輔

右訴訟復代理人弁護士

飯田修

基本事件原告

崔泰源

右訴訟代理人弁護士

和久田修

基本事件被告

金聖中

右訴訟代理人弁護士

河鰭誠貴

財津守正

細貝巌

野中智子

基本事件被告

兪順伊

<外五名>

右六名訴訟代理人弁護士

冨田康次

小串静夫

梶原正雄

梶原則子

主文

補助参加人が、被告らを補助するため基本事件に参加することを許可する。

理由

一  基本事件の概要

一件記録によれば、本件の基本事件は、補助参加人が松本祐商事株式会社(松本祐商事)及びそのグループ会社(シティリース株式会社及び株式会社フェニックス)に対してした融資(本件融資)が違法であり、それが補助参加人の当時の担当理事であった(現在は代表理事である)被告金聖中(被告金)及び当時の代表理事であった亡許弼〓(亡許)の職務上の義務違反に基づくものであるとして、補助参加人の組合員である原告が、中小企業等協同組合法(中協法)四二条・商法二六七条に基づき、被告金及び亡許の相続人である被告兪順伊らに対して、本件融資により補助参加人が被った損害の賠償を求めた代表訴訟である。基本事件において、原告は、補助参加人の本件融資が違法である根拠として、本件融資が「協同組合による金融事業に関する法律」六条・銀行法一三条に定められた法定限度融資額を大幅に超過するものであり、また、中協法三八条により必要とされている理事会の承認を経ていないと主張しており、被告金は、これらの主張を争っている。

二  申立の理由

1  中協法四二条・商法二六七条の代表訴訟は、中小企業等協同組合(組合)の理事に対する請求権を個々の組合員が行使する形をとっているものの、実質的には組合の利益を主眼としたものではなく、さりとて、もっぱら組合員個人の利益のみにかかわる訴訟でもなく、団体内部において、その構成員が自己の個人的利益に直接かかわらない資格で構成員全体の利益のために団体の機関の違法行為の是正を求めることを目的とする訴訟の一種であるから、組合には、組合員たる原告とは異なる独自の利益が認められるというべきである。

基本事件において原告の主張する融資の違法事由が判決で認められるならば、補助参加人は極めて甚大な不利益を被る。すなわち、補助参加人は、従前より法人に対する融資については中協法三八条の適用がないものと考えて業務を運営しており、また、法定限度融資額は融資先の各法人ごとに定まるものと解し、そのように取り扱ってきた。したがって、基本事件の判決において、松本祐商事に対する本件融資が違法であるとされるならば、補助参加人の従前の融資業務取扱方法が否定されることとなり、今後の業務の運営にも著しい支障を生じ、更に、これまで在日韓国人社会ひいては日本社会において築き上げてきた補助参加人の信用が著しく傷つけられることとなる。

2  また、本件融資は、補助参加人の意思決定によって行われたものであり、違法融資であるか否か、融資の決定において役員に過失があったか否かを判断するには、補助参加人の融資業務の実際の流れを正確に把握する必要があり、これに関する豊富な資料が必要である。かかる資料を有するのは補助参加人であるから、補助参加人が訴訟に参加することは裁判所が正しい事実認定をする上での資料を確保するという意味において必要不可欠である。

3  さらに、被告らのうち亡許の相続人らは、本件の事実関係をほとんど知らず、その証拠の存在も知らない。したがって、補助参加人がこれを補助しなければ右被告らの公正な裁判を受ける権利も実現されない。

4  以上のとおり、補助参加人は、基本事件の訴訟の結果に付き利害関係を有するから、被告らを補助するため、基本事件に参加することの許可を求める。

三  原告の反論

1  民訴法六四条に基づく補助参加が許されるためには、補助参加人が被参加人を補助することにつき利益を有することを要する。補助参加人に参加の利益があるといえるためには、補助参加人が、当該訴訟の結果すなわち訴訟物たる権利ないし法律関係の存否に関する判断について利害関係を有し、かつ、右判断について被参加人と実体法上の利害を共通にすること、すなわち、被参加人が当該訴訟において勝訴判決を受けることにより、補助参加人も利益を受ける関係にあることが必要である。

基本事件の訴訟物は補助参加人の被告らに対する損害賠償請求権の存否であり、基本事件について、原告が勝訴した場合には、判決主文によって、補助参加人が被告らに対して損害賠償請求権を有する旨の補助参加人にとって利益となる判断がされ、逆に、被告らが勝訴した場合には、補助参加人は右請求権を有しないという補助参加人に不利益な判断がされることになる。したがって、本案判決の主文における判断について、補助参加人は被告らとその利害が相反する関係にあるから、補助参加人が被告らを補助して、その敗訴を避けるために補助参加をする利益を認める余地がないことは明らかである。

2  また、基本事件の主たる争点は、被告金及び亡許が松本祐商事グループに対する融資の決裁をしたことが補助参加人に対する不法行為(忠実義務違背行為)を構成するか否かの点であるから、基本事件の実質的争点が本件融資という補助参加人の行為の適否にあるとする補助参加人の主張は、基本事件についての誤った理解を前提とするものであるのみならず、代表訴訟が、組合の理事がした個々の職務行為の是正を目的とするものであることを看過したものであって失当である。

3  さらに、亡許の相続人である被告らが事実関係を把握していないことは、補助参加申立の理由とはならない。補助参加が許されるための要件は、補助参加人が、被参加人を補助するにつき利益を有することであって、右のような事由は補助参加人の参加の利益と無関係な事柄だからである。なお、被告金は、補助参加人の現代表理事であり、また本件融資当時の現場の責任者であったのだから、本件融資に関する事実関係について最もよく知り得る立場にあり、補助参加人が被告らに補助参加しなくとも訴訟追行上何ら支障はありえない。

4  以上のとおり、補助参加人に参加の利益は認められないから、補助参加の申立には異議がある。

四  申立に対する当裁判所の判断

1  民訴法六四条に基づく補助参加が許されるためには、補助参加人が「訴訟ノ結果ニ付利害関係ヲ有スル第三者」であること、すなわち、補助参加人に参加の利益のあることが必要であり、右「利害関係」は、事実上の利害関係では足りず、法律上の利害関係でなければならないと解される。

原告は、補助参加人に参加の利益があるといえるためには、補助参加人が、当該訴訟の訴訟物に関する判断について利害関係を有し、かつ、右判断について被参加人と実体法上の利害を共通にする必要があると主張する。この考え方に立てば、補助参加人が参加の利益を基礎付ける事由として主張するところは、いずれも判決理由中の判断事項に関係するにすぎず、基本事件の訴訟物である損害賠償請求権の存否に関しては被告らと利害を共通にしないから、補助参加人には補助参加の利益が認められないことになろう。

しかし、補助参加の趣旨・目的に鑑みると、補助参加人が訴訟物自体の判断について利害関係を有しないとの一事をもって補助参加の利益を欠くとするのは狭きに失するというべきである。補助参加の趣旨・目的は、補助参加人が被参加人を補助して訴訟活動を行うことにより被参加人の勝訴を助け、そのことを通じて補助参加人自身の利益を守るところにあるが、補助参加は、不利益な判決の既判力が自己に及ぶことを避けるためではなく(その場合には、補助参加より強力な共同訴訟参加あるいは共同訴訟的補助参加が認められる)、被参加人敗訴の本案判決がされることによって補助参加人の私法上、公法上の法的地位あるいは法的利益に事実上の不利益な影響が及ぶことを防止するためのものと解される。すなわち、補助参加人が訴訟の結果に付き法律上の利害関係を有していなければならず、また、補助参加の利益が法律上の利益でなければならないとされるのは、被参加人敗訴判決の事実上の影響が及ぶ補助参加人自身の地位あるいは利益が事実上・経済上の地位(利益)では足りず、法律上の地位(利益)でなければならないことを意味するものにすぎず、被参加人敗訴判決の効力が法律上、補助参加人に及ぶ必要があることを意味するものではない。そして、判決の効力が及ぶか否かという観点からは、判決主文中の訴訟物に関する判断と、判決理由中の争点あるいは攻撃防御方法に関する判断との区別は重要であるが、被参加人敗訴判決の補助参加人の法律上の地位(利益)に対する事実上の影響という観点から見ると、それが判決主文中の訴訟物に関する判断によってもたらされるのか、判決理由中の争点あるいは攻撃防御方法に関する判断によりもたらされるのかの区別は必ずしも重要ではないと考えられるから、判決理由中の判断についてのみ法律上の利害関係を有する場合であっても、補助参加人がその法的地位(利益)を守るために被参加人を補助して主張立証の機会が与えられるべき場合には、参加の利益が認められるというべきである。

2 商法上の株主代表訴訟を始めとする代表訴訟においては、役員の個人的な権限逸脱・権限濫用行為が問題となる場合もあるが、会社等の正規の意思決定に基づいて行われた役員の行為の適否・当否が争われる場合もあり、会社等が自ら役員の責任追及を行わないのは、右意思決定を正当と認めるが故ということも、当然あり得る。その場合、会社等は、判決の理由中で右意思決定を違法・不当と認められないことにつき、独自の利益を持っているというべきであるとともに、被告役員の敗訴判決で予想される判断が会社等に及ぼす影響の内容いかんにより、右利益を法律上の利益と評価すべき場合があると考えられる。

被告役員の勝訴は、会社等の請求権の否定を意味するが故に、会社等が被告側に補助参加することは、一見、自己矛盾であるように見えるが、代表訴訟には、会社等の損害を回復するという目的とともに、株主等からする会社等の業務執行に対する監督是正権の行使という側面があり、会社等が意思決定を正当として役員の責任追及を行わないという態度をとっている場合、右側面から見れば、会社等は提訴した株主等と対立する隠れた当事者ともいうべき立場にある。したがって、会社等が被告側に補助参加し、提訴株主等と対立する立場で訴訟活動をしたとしても、会社等が前記独自の法律上の利益を有する限り、代表訴訟制度の趣旨に反するものではなく、むしろ、会社等に主張・立証の機会を与えてその意思決定の適否・当否を判断することが適当であると考えられる。

3 基本事件において、原告は、本件融資が違法である主要な根拠として、本件融資が「協同組合による金融事業に関する法律」六条・銀行法一三条に定められた法定限度融資額を大幅に超過していること及び中協法三八条により必要とされている理事会の承認を経ていないことを挙げており、仮に、原告の請求が認容された場合には、判決理由中において原告の主張する本件融資の違法事由が認定されて本件融資に係る補助参加人の意思決定が違法であるとの判断が示される可能性が高い。そして、右認定判断は、補助参加人に行政庁からの立入検査、業務の停止、解散命令等の公法上の監督処分(「協同組合による金融事業に関する法律」六条・銀行法二五条一項、二六条及び二七条)を受ける可能性を生じさせるのみならず、補助参加人の継続的な融資業務の方針あるいは運営方法にも影響を及ぼさざるを得ないものと考えられる。

したがって、基本事件における被告ら敗訴判決は、本件融資に係る意思決定の適法性という補助参加人の法的利益に不利益な影響を及ぼす関係にあり、補助参加人がこれを避けるためには、本件融資に関する資料を提出する等して本件融資の適法性について主張立証する必要があるから、補助参加人は、基本事件の判決の結果について法律上の利害関係を有するものというべきである。

五  これまで検討したところによれば、補助参加人の補助参加の申立は理由があるから、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官金築誠志 裁判官深山卓也 裁判官棚橋哲夫)

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